「まがいものの乙女たち」に向けてインタビュー⑨ 田村さえ
「まがいものの乙女たち」インタビュー第九弾は、作・演出の田村さえ。前回の旗揚げ公演「狐/真夜中の共謀」についてや、今週末の公演に向けて、作品について聞きました。
―まず、ご挨拶をおねがいします。
田村さえ(以後田村):灯台とスプーンで、主に脚本と演出、宣伝美術まわりを担当しています、田村といいます。役者も、できるときはやりたいと思っていますが、今回の作品は、つくっていく過程のことを考えて、自分は出演しないことにしました。
―「狐/真夜中の共謀」では、葛葉の母親で山のさけめに落ちた「蒼維」という役をしていました。
田村:蒼維は、もともと始めに書いていた狐脚本には居なくて、「ゴドー」的役割をもたせていたのですが、客演さんに誰を呼ぶか考えている最中に、役者のバランスや、重すぎ&救いがほぼなかった作品にちょっと風を入れたいと思い、全て書き直しをしたのです。その時に、「山とひとつになった神様のようなひと」という、曖昧な存在として書きました。3年ぶりに長編で役をもって演じることをしたので、集中の仕方など時間がかかりましたが、いるか居ないかでは、つくって良かった役だと思います。
―今回の、「まがいものの乙女たち」について。
田村:あと10年もしたら忘れ去られてしまう、というか、すでに「なかったこと」にされがちな記憶の部分、しかも「そういうこと、あるよね」という共通の記憶を遺せたらいいかなと思い書きました。元は学生さんに依頼されて、学生が8人でできるように書いた脚本で、「大学生」でありながら、まだ忘れていない中学時代の記憶の感覚を再生できたら面白いだろうなと思って。後悔を形にするには幻が必要だと思い、まず「夕子」という存在から書いていったことを覚えています。始めはもっと、表面的なドロドロイメージを全面に出していました(始めは、柳田に「これ、本当にやって大丈夫?」と心配されるほど、誤解を生みそうなイメージを作っていました)。その企画はなくなってしまったのですが、その後かなり書き換え・書き足しをして、また違う、でもなるべく本質に近いかたちで、ありのままの「乙女たち」を表現したいと思いました。
―8人の役者について聞かせてください。
田村:すごい人たちだと思います。日に日に、作品に対する感覚というか、たぶん自分の持つ「何かの記憶」とつなげて、思い入れを持って「過去」と接しているような気がします。中には直接「過去」に触れないひとたちもいますが、別の形で個と集団としての表現を何種もやっていて。集団の際は息が合わないと出来ない部分がたくさんある。そういうときに、ちゃんと緊張感が出せるひとたち、というか。学生さんも多くいて、はじめは「引き出しにない」ことを悩む方も多かったのですが、やればやるほど変わっていて、一週間前と全然違うね、なんてことがたくさん起こっています。役者さん同士もコミュニケーションがとても取れているので、いい座組だと思います。
―音楽については。
田村:音楽については、ふたたび深町将詞氏に参加して頂いています。あまり曲数は多くなく、アレンジをかなりやってもらっていて、ひとつの曲によってこう、共通認識というかなんというか「記憶を引き戻す装置」のような役割を持っています。特にメインになる3曲、それぞれが意味を持ち、シーンに寄り添いつつ、時代の、あの時の空気、匂いみたいなものが漂う音を出してくれる。あの曲できる?と聞くとすぐに「できます!」で、次回合わせたとき本当にできている。とても尊敬しています。
―最後に抱負をお願いします。
田村:灯台とスプーン、旗揚げから二回目の作品です。もっと沢山話したいことはあるけど、やめておきます。前作とは全く色が違う、でもやっぱり灯台とスプーンだな、というものに仕上がってきました。演じている側の思い入れが強くなるのは、本当はあまり良くないことなのかもしれませんが、座組のひとりひとりが、多分自分の記憶と照らし合わせ、長い間とても悩みながら、大事に作ってきた作品です。
今回も大きい会場ではないし、「演劇」という視点で見れば技術の不足はあります。が、込められるだけの心をこめて本番を迎えます。どうか、今だけの彼女たちの姿を観に来てください。よろしくお願いいたします。
灯台とスプーン第二回公演
「まがいものの乙女たち」
作・演出:田村さえ
日時
2016年2月
19日(金) 19:00~
20日(土) 14:00~/18:00~★
21日(日) 14:00~/18:00~
★…深町将詞氏によるアフターライブ有。
開演30分前より開場いたします。
会場
紺屋2023 konya-gallery
(福岡市中央区大名1-14-28 第一松村ビル202)