草香江ポエトリークラブに向けて 柳田詩織

灯台とスプーン第6回公演「草香江ポエトリークラブ」に向けて、出演者コラム第六弾は、灯台とスプーンの柳田詩織です。作品を通して考える子ども時代、そして四年ぶりの本公演に向けて考えていることなど書いてもらいました。


たいへんご無沙汰しております。灯台とスプーンの柳田です。本番前恒例のこのコラムも3年ぶりということで、何を書こうかしらととても悩みました。

年々、自分の感覚や気持ちをことばにすることが苦手になっているように思います。そういえば、こどもの頃は作文も詩も俳句も得意で、先生に褒められていたのにな、とか思い出したりして。大人になって選択肢は増えたけど、それ以上にできなくなってしまったことが多いななんて、感傷に浸ってみたりします。

こども時代からたどる、ふるさとについて

こどもの頃といえば、私は4つの小学校に通いました。なんてことない、父の仕事の都合でですが。平均して1年半くらいで転校する生活が私の普通でした。

国語が得意で、社会が苦手なこどもでした。なぜって、国語は地域による格差がそんなにないし、社会は郷土研究が児童の土壌になっていることが多いから。行く先々でゼロからスタートするからか、なんというか、楽しみ方が分かるまでに時間がかかる教科でした。すこし疎外感もあるんですよね。

一方の国語は、日本語さえ読み書きできれば一定の評価がもらえて、どこでも同じように楽しむことができました。自分の書いたものを褒めてくれる人がいる。それは自信になるし、得意気にもなりますよね。

ちなみに算数と理科は、地域ごとに進行状況や順番が違ったりして、習ったり習わなかったり、2回やったりしました。通分前もやったやん!なんて、たらたらと文句を言っていたのも良い思い出です笑 ごめんね母さん。

そうして小学6年生の年に、両親の郷である福岡に落ち着きました。

以来20年はこの土地で暮らしているので、ようやく、ふるさとはここなのだと、何となく思うようになりましたが、二十歳くらいまでは故郷というものになかなかピンと来ませんでした。

祖父母は福岡にいたので、大型連休は帰省をするもの=故郷なのか、暮らした先々=故郷なのか、習得した方言=故郷なのか、卒業した場所=故郷なのか、はてさて。

今となっては本当にどうでもいいことなのですが、故郷に対して、何だか妙にこだわりがある時期もありました。ルーツで嬉んだり心細くなったりする、ああ、若くて恥ずかしい。

17年ぶりに暮らしていた場所を訪れて

ただ、10年ほど前でしょうか。17年ぶりに暮らしていた場所を訪れた時、お気に入りだったパン屋さんやコロッケ屋さんは見当たらず、近所の商店街は知らないお店ばかり、パンダ公園からシンボルパンダが消え、駅は大きく近代的になっていました。かろうじて住んでいたマンションはあったけれど、まるで私の知らない表情をしていた。

大きな街ですし、きっと移り変わりがはやいのだと、わかってはいますが、かなしいような心許ないような感覚になったことをよく覚えています。

そこにずっと暮らしている人たちは、もっと複雑なんじゃないかな、とか思ってみたりして。どうかな、案外渦中にいるとそうでもない?良い思い出ばかりで、私が美化してしまっているだけなのかも。

草香江ポエトリークラブについて

さて、今回のおはなし「草香江ポエトリークラブ」。田村が何度も何度も書き直して、今のかたちになりました。

初稿を読んだのが2020年の春だったでしょうか。当初の面影は、詩とコミュニティと「喫茶シトロン」くらい。(もう少しあるけど、そのあたりはぜひ劇場で!)

本当は3年前に上演するはずだったもの、だけど、取り巻くいろいろなものが変わってしまった。年齢を重ねて見えてくるものもある。後悔や憤りもある。社会は相変わらずなまま、つらいことの方が多い。

ただ、たまに拾えるあたたかいものを、きちんと認識できるようでありたい。

今回演じている、蔵山という人間を通して、そういう体験をさせてもらっています。

2020年当時に上演できていたら、きっと出会えていない人たちとつくっています。もちろん、田村の脚本が変わったところも大きいでしょうが、集まってくださった役者の皆さん、みんな心根が優しくて、行きつく先が想定していたものよりも丸みを帯びた作品になりました。

ともすれば暗い方に引き寄せられがちな私を、引っ張り上げてくださっています。それは、今までにあまり感じたことのない刺激で、戸惑いながら、前に進んでいます。きっと。

本番まで1週間、もうちょっと足掻いてみようと思います。ぜひ劇場でお会いしましょう。

灯台とスプーン第6回公演「草香江ポエトリークラブ」

出演

柳田詩織(灯台とスプーン)
村岡勇輔(ギムレットには早すぎる非・売れ線系ビーナス
大間萌夏
柳田光優(LIGHTHOUSE CAMP CIRCLE)
池田景(最新旧型機クロックアップ・サイリックス
峰尾かおり

日時・会場

2023年
12月2日(土)14:00-/18:00-
12月3日(日)13:00-/17:00-
(30分前より受付・開場いたします)

会場:湾岸劇場博多扇貝

〒812-0021 福岡県福岡市博多区築港本町2−1(福岡サンパレス内)

料金

一般前売 2,500円 当日3,000円
学生前売 1.500円 当日2,000円

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